凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」を読みました。
恋愛小説という枠に収まらない、物語に深みがある本でした。
本の感想や、この本が良いと思った点についての考察も書いています。
物語の最初にくるプロローグの意味についても考えてみましたので、よかったら読んでみてくださいね。
「汝、星のごとく(凪良ゆうさん)」の簡単なあらすじ
瀬戸内の島で育った高校生の暁海(あきみ)は、転校生の櫂(かい)と出会い、二人は惹かれ合う。
二人の共通点はどちらも家庭に問題を抱えていること。父親の浮気に傷つく母親を助けようとする暁美と、母親の自由奔放な恋愛に振り回される櫂。
二人はそれぞれ生きることの不自由さを感じながら、自分たちの道を生きていく。二人がたどり着いた愛の形とは?
「汝、星のごとく」の感想・考察について紹介!(ネタバレあり)
瀬戸内の小さな島を舞台にした小説「汝、星のごとく」についての感想・考察について紹介します。
私は、恋愛小説という枠に収まらない、物語に深みのある本だなと思いました。
いろんな愛の形や、不自由さの中で自由に生きる人生の選択。
私は読んでいて、感情が思わず、引っ張られてしまう場面も多かったです。
私がこの本が良いな〜と思った点について感想・考察を書いていきますね。
①登場人物の恋愛が長い年月、描かれているの良い!
私は、暁美と櫂の恋愛が、長い年月を経て変化していく様子が丁寧に描かれているのが良いと思いました。
17歳の夏から始まり、32歳の夏までの期間の恋愛が描かれています。
くっついたり離れたりする暁美と櫂。簡単に二人が結ばれない物語ってもどかしいですよね〜。
純粋な高校生の恋愛から成長し、最終的に愛を呪いと思ってしまうまでに変化していく心情は切ないものがありました。
わたしにとって、愛は優しい形をしていない。
どうか元気でいて、幸せでいて、わたし以外を愛さないで、わたしを忘れないで。
愛と呪いと祈りは似ている。
「汝、星の如く」P269
二人の変化していく様子に物語に深く入り込ませるような確立した世界観がありました。
登場人物の繊細な心情が、長い年月の中で丁寧に描かれているのが良かったです。
②人生の選択や自立について描かれているのが良い!
高校生から大人になるまでの過程で、人生の選択や自立について描かれているのが良かったです。
暁美と櫂はどちらも家庭に問題を抱えていて、それが二人を不自由なものにしていました。
情緒不安定な母を支える暁美や、母親の恋愛に振り回され面倒をみる櫂の様子から、
ヤングケアラーの問題も描かれていて、考えさせられるものがありました。
ヤングケアラーって若い時だけの問題ではなく、ずっと背負ってしまうんですね〜。
そんな不自由な環境にいながら、暁美が生き方を決めようとしているときの心情も印象的でした。
自分を縛る鎖は自分で選ぶ。結婚してもしてなくても、仕事をしてもしてなくても、子供がいてもいなくても、自由で居続けること。自由を手に入れても、人はなにかに属しているということ。
「汝、星の如く」P294
家庭の問題などを乗り越えながら、暁美が自分の人生受け入れ、自ら選択し、自立していく成長過程がとても感動的でした。
③いろんな愛の形が描かれているのが良い!
暁美と櫂の二人だけではなく、いろんな愛の形が描かれているのが良かったです。
私は個人的に、暁美の父の不倫相手の瞳子(とうこ)さんがすごく好きでした。
17歳の暁美が、母を置いて島を出るか迷った時に、瞳子さんが暁美に言った言葉がとても印象に残りました。
「暁美ちゃんは好きに生きていいの」「そんなの自分勝手です。許されない」
「誰が許さないの?」間髪入れず問い返されて答えに詰まった。
「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」
島のみんな。世間の目。でもその人たちに許されたとして、わたしは一体。
「汝、星の如く」P74
暁美へ向けた言葉でありながら、不倫の末に愛した男性と生きることを決めた瞳子さん自身の信念のように感じます。
誰かに許されることを必要とせず、自分の生き方に誇りを持って生きている瞳子さんの潔さが私は好きでした。
いろんな経験を経て、櫂のそばにいるため32歳の暁美が覚悟を決めたときの言葉も良かったです。
わたしは愛する男のために人生を誤りたい。
わたしはきっと愚かなのだろう。なのにこの清々しさはなんだろう。
最初からこうなることが決まっていたかのような、この一切の迷いのなさは。
「汝、星の如く」P310
愛する人のために人生を誤りたいって言葉。この物語の軸になっていますね〜。
この本で扱われた愛の形は、恋愛、結婚、だけでなく、不倫、同性愛、契約結婚、親子の愛、自分への愛など。
いろんな愛の形が描かれおり、それがどれも大切に描かれているのがよかったです。
「汝、星のごとく」プロローグの意味とは?
「汝、星のごとく」のプロローグはどんな意味があったのでしょうか?
プロローグは物語の全てを読んで、最終的に繋がるしかけになっていました。
また、これも一つの愛の形なのだと思わせるプロローグでした。冒頭の一文はこちら。
月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。
「汝、星の如く」P8
最初にこの一文を読んだ時は、不穏な空気を感じてドキリとしました。
夫が恋人に定期的に会いにいくってどういうこと?
けれども単純な不倫の物語ではありませんでした。
読了後に、もう一度プロローグを読み返したのですが、穏やかな気持ちで納得して読むことができました。
つまり、物語を通していろんな愛の形を見せられた読者は、最終的に選んだ暁美の選択を受け入れることができるようになっているのです。
少し解説すると、暁美は高校時代の恩師の北原先生と互助会感覚という、足りないものを補う形で結婚します。
暁美が櫂を忘れられなかったと同様に、北原先生にも忘れられない恋人がいるため、二人の結婚は少し変わった形になったのでした。
島の人から見たら、奥さん公認の不倫ということ。小さな島ではゴシップの対象となる話です。
ただ、暁美の中には死んだ櫂がずっといます。それは暁美を強くします。
最終的にはどんな形でも自分の生きる道を静かに受け止め、生きていく暁美の姿が印象的でした。
夫婦でありながら、愛しい存在が別の場所にもあるという生き方。
これも自由を生きる中で選んだ一つの愛の形なのだと、読み返して思うことのできるプロローグでした。
おわりに
汝、星の如く(凪良ゆう)の感想やこの本が良いと思った点を考察してみました。
恋愛小説なのですが、恋愛小説の枠に収まらない物語の深みがありました。
プロローグの意味についても書いてみました。
深みのある胸を打つプロローグでしたね〜。
いろんな愛の形、不自由さのなかで自由に生きることの選択について教えてくれた本でした。